先日かなりスーツや生地に詳しいお客様からお問い合わせをいただきました。
世界的にも有名な英国高級生地メーカーの、とある生地を取り扱っていますか。というお問い合わせ。
何十年も昔、世界中で一世を風靡し、ジェームズボンドも使用した名作とよばれたシリーズで、形を変えながら継続しているものの当時のレシピの生地は生産されていないもの。
その復刻版的な謳い文句で発売された生地があるかというお問い合わせでした。
残念ながらそのシリーズは日本のとあるメーカーがオリジナルで制作したものなので当店では取り扱っていないのですが、面白い話だなと思ったので少し書かせていただきます。
当時の生地を再現しようと(思ったかどうかは分かりませんが)同じ素材の配合やレシピに近づけて織りあげるのですが、国産メーカーが日本の紡績工場に糸を作らせその糸を使って英国工場で織り上げるというもの。
それが復刻版として出来上がるわけなのですが、実際は当時の生地とはまったくの別物に仕上がります。
どちらがいいとかいう話ではなく、使っている素材は同じでも並べてみると違う生地が並んでいるといった感じでしょうか。
というのも、当時の糸を作り出していた英国の紡績メーカーが廃業してしまっているため、同じ風合いを出すことができないんです。
ちょっと糸が違うだけでそこまで変わるの?と思われる方がいらっしゃるかもわかりませんが、各メーカーそれぞれの特徴が出るので同じものを作るのは至難の業なんです。
紡績機にしても織機にしても元は専門メーカーから購入するので同じ機械を使用していることは普通にあるのですが、それを独自に研究して改造し自分達だけの生地を作るところに各ブランドの特徴が出てきます。
他社から真似されないために試行錯誤し、一流企業が作り出すその高い技術は門外不出なところが多い。
そのため廃業や倒産などの憂き目にあうとその技術が失われてしまい二度と再現できなくなることもあるのです。
いま私たちが来ている服地も将来無くなっている可能性が普通にあるということ。
仕立てたスーツが10年後いい感じに馴染み素晴らしいポテンシャルを発揮したとして、更に作りたいと思ってももうその生地は二度と手に入らない可能性もある。
地球規模の気候変動で素材の質も変わるかもしれませんし、まさに一期一会みたいなものだと思います。
気に入ったスーツは大切にケアし10年後20年後も着ていたいですね。