伝説のマエストロ “アントニオ・パニコ”

お客様からご連絡をいただいてアントニオ・パニコがご逝去されたことを知りました。

ナポリ仕立ての原型を築いたとされる伝説的サルト・ヴィンチェンツォ・アットリーニ直系の技術を受け継いだ最後の世代であり、伝説のロンドンハウスのヘッドカッターとして20年以上活躍し、ナポリ仕立ての黄金期を作った中心人物です。

間違いなく世界最高峰であり、ナポリでは頂点との評価を受けていました。

パニコのスーツは「クラシックを追求し時代を超える色気が生まれる。」といわれます。

私もその『色気』をかなり大事にしているんですが、俗にいうファッション的なものではなく(シャツを胸まではだけたり派手な服を着るような)落ち着いた雰囲気や余裕のある立ち居振る舞い、知性などが外見だけでなく内面から醸し出される大人の雰囲気のことです。

雨降らし袖、首に吸い付く上襟、腰を包み込む裾のカーブなども別格といわれています。

そしてパニコの代名詞といえば、型紙に頼らないフリーハンド・カッティングです。

サイズを測ったら、型紙を使わず体を見てその場で布に直接チョークを入れるという超絶技法。

立体の“彫刻”に近いアプローチです。

これが唯一無二のフィット感と色気を生むといわれています。

 

私には想像もできない唯一無二の技術ですが、分かる気がするんです。

とあるイタリアスーツを学んだ日本を代表する職人が、高級パターンオーダーの制作の為に少数精鋭の国内屈指の工房に依頼しましたがどうも思った雰囲気が出ない。

日本人の熟練の職人はあまりにきっちりしすぎていて、数値ピッタリにこだわり直線も完璧に仕上げようとします。

正確無比なスーツではイタリアらしい雰囲気は出ないんです。逆に不自然に感じてしまう。

それがきっちりとした日本人の昔からの考え方だから間違っているわけではないんです。

しかし、自然界に本当の直線などはなく、ナポリ仕立てで重視される曲線こそ自然な雰囲気を醸し出し私たちに美しさを感じさせてくれるんだと思います。

 

 

残念ながら私自身は実際にパニコの服を手にしたことがありません。

しかし写真を見るだけでも大体の雰囲気はつかめますが、それだけでもとても素晴らしいスーツだと思っていました。

世界的に有名なフィレンツェやナポリ、あるいは日本のトップレベルと称される職人のスーツを実際に手にし着てみてもそこまで魅力を感じませんでしたが、パニコのスーツは雰囲気が好きでしたね。

また昔の職人って作るスーツは美しくても本人の着こなしはダサい(笑)人が多いのですが、パニコは着こなしも洗練されていて、優しさを感じるクラシックなイメージで好きだったんですよ。

本当にかっこよかった。

トランクショーなどで日本に来ることがあったら一度お会いしてみたかったです。

 

近年でもチャルディ、ダルクオーレ、セクストン、そしてパニコ。

最高峰の職人たちの時代が終わりを迎えようとしています。

継承され子の世代に受け継がれていますが、今は効率の時代で伝説級の技術を持つ人は少ないといわれています。

もうそのうち昔の色気をまとうスーツを着ることができなくなるかもしれませんね。